弁護士コラム

2018.02.01更新

東京都豊島区池袋・城北法律事務所の弁護士の結城祐(ゆうきたすく)です。

昨日(2018(平成30)年1月31日),東京高裁で,存立危機事態における防衛出動命令に基づき自衛隊員である控訴人に対して下される,職務命令に服従する義務がないことの確認を求める訴えについて,控訴人に対して生じる重大な損害を避けるため他に適当な方法がないため,適法な訴えであるとして,訴えを却下とした東京地裁判決を取り消して,東京地方裁判所に差し戻し,一から審理をすべきとする判決が言い渡されました。

ようやく裁判の入口にたったのであり,一から東京地方裁判所の審理が始められるという段階ですが,憲法学者の多くも訴えていた安保法制の違憲性が審理される可能性も出てきたことからすれば,今回の東京高裁判決は非常に画期的なものといえるのではないでしょうか。

第1 東京高裁判決のポイント
①存立危機事態における防衛出動命令に基づく職務命令への不服従を理由とする懲戒処分を受けることの予防を目的として,存立危機事態における防衛出動命令に服従する義務がないことの確認を求める無名抗告訴訟(行政事件訴訟法に予め規定された類型の訴訟ではない抗告訴訟)であるとしていること
②実質的には,職務命令への不服従を理由とする懲戒処分の差止めの訴えを,職務命令ひいては防衛出動命令に服従する義務がないことの確認を求める訴えの形式に引き直したものということ
③適法な無名抗告訴訟と認められるためには,職務命令に服従しないことやその不服従を理由とする懲戒処分がされることにより重大な損害を生ずる恐れがあること(重大な損害の要件。行政事件訴訟法37条の4第1項本文,同条2項各参照)及びその損害を避けるため他に適当な方法がないこと(補充性の要件。行政事件訴訟法37条の4第1項ただし書)の要件を満たす必要があること
④重大な損害について
 ア 職務命令に服従しない自衛官は,極めて厳しい社会的非難を受けること
 イ 職務命令を受けた自衛官が服従を怠るときは,国民や他の自衛官の生命及び身体に高度の危険性を及ぼすおそれがあることは明らかであるから,懲戒処分が免職を含む重大なものになる可能性や刑事罰も重くなること
 ウ アやイからすれば,懲戒処分がされた後に取消訴訟又は無効確認訴訟(行政事件訴訟法に規定された類型の抗告訴訟)を提起し執行停止の決定を受けることなどや,懲戒処分の差し止めを命ずる判決を受けることでも容易に救済できない。
⑤補充性について
 ④アやイからすれば,事後的に懲戒処分の取消訴訟又は無効確認訴訟を提起して執行停止の決定を受けること等により容易に救済を受けることができない,また懲戒処分の差し止めを命ずる判決を受けることによっても容易に救済をうけることができない。防衛出動命令に基づく職務命令に服従する義務の不存在を事前に確認する方法でなければ自衛隊員は救済を受けられない。

特に,④のように,自衛官が職務命令に服従しなかった場合の当該自衛官の損害を具体的に論じている点で特徴があります。
また,⑤によれば,本件のような義務不存在確認訴訟が,行政事件訴訟法に規定された差止め訴訟よりも早い段階で予防的に用いられる訴訟類型であることを明らかにした点でも特徴があります。そして,補充性の要件を満たす理由についても,重大な損害と同じ事情が重視されています。

第2 君が代訴訟(最判平成24(2012)年2月9日)と本件(東京高判平成30(2018)年1月31日)との比較
なお,本件と同様の義務不存在確認訴訟に関するものとして,最判平成24年2月9日国歌斉唱義務不存在確認等請求事件(以下「最高裁平成24年判例」といいます。)があります。

最高裁平成24年判例は,「無名抗告訴訟は行政処分に関する不服を内容とする訴訟であって,…本件通達及び本件職務命令のいずれも抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらない以上,無名抗告訴訟としての被上告人らに対する本件確認の訴えは,将来の不利益処分たる懲戒処分の予防を目的とする無名抗告訴訟として位置付けられるべきものと解するのが相当であり,…本件においては,…法定抗告訴訟である差止めの訴えとの関係で事前救済の争訟方法としての補充性の要件を欠き,…不適法というべき」と判示しました。


本件において,この最高裁平成24年判例と違う判断が出たのは,自衛官に対して極めて厳しい社会的非難を受けること,最高裁判例の事案においては「免職処分以外の懲戒処分がされる蓋然性があると認められる一方で,免職処分がされる蓋然性があるとは認められない」と判示するのに対し,本件においては懲戒処分が免職を含む重大なものになる可能性や刑事罰も重いものが想定されることが重視されたのではないでしょうか。そして,自衛官の職務命令に対する不服従があってから差止めの訴えを提起してからでは,これらの重大な損害を避けることができないことから,予防的に無名抗告訴訟を提起することを適法としたのだと思います。

なお,最高裁平成24年判例の事案においては,上告人らは,仮に無名抗告訴訟としては不適法であるが公法上の当事者訴訟(行政事件訴訟法4条)として適法であるのであれば後者とみるべき旨主張しています。
これに対し,最高裁平成24年判例は「本件通達を踏まえ,毎年度2回以上,都立学校の卒業式や入学式等の式典に際し,多数の教職員に対し本件職務命令が繰り返し発せられており,これに基づく公的義務の存在は,その違反及びその累積が懲戒処分の処分事由及び加重事由との評価を受けることに伴い,勤務成績の評価を通じた昇給等に係る不利益という行政処分以外の処遇上の不利益が発生し拡大する危険の観点からも,都立学校の教職員として在職中の上記上告人らの法的地位に現実の危険性を及ぼすものということができる。」,「本件職務命令に基づく公的義務の不存在の確認を求める本件悪人の訴えは,行政処分以外の処遇上の不利益の予防を目的とする公法上の法律関係に確認の訴えとしては,その目的に即した有効適切な争訟方法であるということができ,確認の利益を肯定することができる」としました。

本件においても,公法上の当事者訴訟として職務命令に基づく公的義務の不存在確認訴訟を提起しても,確認の利益が肯定できるとの判断があったかもしれません。

城北法律事務所 弁護士 結城祐(ゆうきたすく)
東京都豊島区西池袋1-17-10エキニア池袋6階
TEL 03-3988-4866
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投稿者: 弁護士 結城祐

2018.02.01更新

東京都池袋,城北法律事務所の弁護士結城祐(ゆうきたすく)です。

今回は,判決をもらったのに,相手が任意に支払ってくれないとお困りの方に強制執行の概要についてお話し,最近の預金債権の差押えの流れについてお話したいと思います。

1 強制執行とは

金銭の支払いや建物の明け渡し等が記載された債務名義(判決,和解調書,調停調書等)をもらったのに,相手が任意に支払いや明渡しに応じないことが多々あります。せっかく勝ったのに意味ないなと途方に暮れるのですが,そのような時には,その債務名義に基づいて強制執行(差押え等の手続)の申立てをすることになります。

2 強制執行の種類

 ①不動産・自動車
  相手の不動産(土地・建物)や自動車を差し押さえて売却し,その代金で債権を回収する。

 ②動産
  相手の家財道具や貴金属等を差し押さえて売却し,その代金で債権を回収する。

 ③債権(相手方の給料債権や預貯金債権等)
  相手の給料・預貯金等を差し押さえて,それを雇い主や銀行等から取り立てて,債権を回収する。

 ④建物明渡し等
  執行官が強制的に不動産の明渡しや動産の引渡し等を行う。

3 メガバンクへの預金の照会

 このように債務名義をもらったにもかかわらず,相手が任意に支払わない時には,相手の財産に対して強制執行をしなければなりません。
 しかしながら,差押えを行う相手の財産は,裁判所が探してくれるわけではなく,自分で探す必要があります。
 この点,相手が不動産(土地・建物)や高級車を所有しているのであればいいですが,そうでない場合には,相手の債権(給料や預金)を差し押さえなければなりません。
 預金についていうと,強制執行をするためには,金融機関の口座の支店までを特定する必要があるとされてきました(最高裁平成25年1月17日決定)。
 ところが,相手の預金口座の支店までは分からないケースが多々あり,その場合でも,従来金融機関は顧客の守秘義務を守るという理由で口座の開示には消極的でした。
 そのため,裁判で勝訴し,判決をもらっても,相手の勤務先や自宅付近の銀行支店口座をとりあえず差し押さえて見たり,それも叶わず泣き寝入りをしなければならない方もいらっしゃいました。
 こうした状況の中,2017年1月頃の報道によると,次の銀行からは,預金債権の差押えのため,本店または担当部署に対して,弁護士法23条の2に基づく照会をすることで,預金口座の有無,支店名,口座科目,預金残高(回答日時点)の情報が得られることになりました。
 ①みずほ銀行
 ②三井住友銀行
 ③三菱東京UFJ銀行
 ④ゆうちょ銀行(取引履歴も開示可能)

 上で記載した通り,3メガバンクとゆうちょ銀行への預貯金の照会は,弁護士法23条の2に基づく照会が必要なので,判決で勝訴しても相手から金銭の支払いが任意になされずにお困りの方は,是非ご相談ください。
 なお,照会の際には,債務名義の写しの添付が必要となります。

4 将来の民事執行法改正の可能性

 そもそも現在の民事執行法が,せっかく裁判で勝訴したとしても差押えが効を奏しない運用になっている点に問題があるように思います。
 守秘義務の問題もあるかと思いますが,条件を付し,他の金融機関でも債務者の口座情報の開示が進むように,法改正がなされるべきと思います。
 実際に,法務省も,養育費未払いの問題を受けて,裁判所が債務者の口座情報を金融機関に照会できる制度を新設する方針という報道がありました。
 今後を見守りたいと思います。

5 さいごにー強制執行の申立て前に必要なこと

 ①債務名義が,判決,和解調書,認諾調書,調停調書,調停に代わる決定,和解調書の場合
  ア 債務名義の送達申請(判決と調停に代わる決定の場合は不要)
  イ 債務名義の執行文付与申請
    債務名義の送達証明申請

 ②債務名義が,少額訴訟事件の少額訴訟判決,支払督促事件の仮執行宣言付き支払督促の場合
  債務名義の送達証明申請


債権差押えを含む債権回収のご相談は
城北法律事務所 弁護士 結城 祐(ゆうき たすく)
東京都豊島区西池袋1-17-10エキニア池袋6階
電話 03-3988-4866

 

投稿者: 弁護士 結城祐

2018.02.01更新

池袋の城北法律事務所の弁護士の結城祐(ゆうきたすく)です。

私の顧問先の一つに土建組合があるため,弁護士になってから建築請負に関する事件を数多く受任してきました。

その中でも,多く寄せられる相談が以下の3つです。

①請負代金の未払いと請負代金額の争い

②建築瑕疵

今回は,①についてお話したいと思います。

①の争いは,注文主との間で口頭で請負代金額を伝えて,工事完成後,注文主に請負代金を請求しても支払われないため,請負代金訴訟を提訴した。そうしたところ,請負人が請求するような請負代金額の合意がなかったと反論されるというのが,典型例です。

契約は,当事者間の意思表示の合致によって決まるものですが,請負契約に関し請負代金額についても意思表示の合致が必要になります。

契約は口頭でも成立しますが,訴訟においては書面,とりわけ請負契約書が重視されます。

ところが,中小企業間の請負契約においては契約書が交わされることは少なく,口頭で始まり工,事が完成すれば請求書を出し支払いがなされるということがよく行われています。

これで問題が起きなければいいのですが,請負代金の未払いが起こり提訴せざるを得なくなった場合には,請負代金を請求する請負人側に請負代金額の立証責任が課されることになるので,契約書がない場合には,請負人側が,口頭で,これこれの請負代金額については注文主も合意していたと主張しても,それが通る可能性は低くなります。

もっとも,口頭で伝えたに過ぎず契約書がない場合にあっても,請負人が当該工事を完成させたのであれば,下記の条文を意識してか,相手方の代理人弁護士からも代金を全く払わないという反論は通常なされません。

商法第512条(報酬請求権)     商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは,相当な報酬を請求することができる。

商法第4条1項(定義)        この法律において「商人」とは,自己の名をもって商行為することを業とする者をいう。

商法第502条1項(営業的商行為)  次に掲げる行為は,営業としてするときは,商行為とする。

        5号         作業又は労務の請負 

会社法第5条(商行為)        会社がその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は,商行為とする,

すなわち,請負人が(株式)会社の場合のみならず(会社法第5条),個人である場合にも(商法第4条1項,第502条1項5号),請負工事を完成させたのであれば,相当な報酬を請求する権利があることになります。

ただし,請求する請負代金額が報酬として相当であることの立証責任も請負人にあると考えられます。

しかしながら,中小企業間の請負契約において,1人工当たりの人工代や工事の単価等が明確に定義されていることは少なく,経験や伝承などによって金額が決められていることがあるため,請求する請負代金額が報酬として相当であることを立証することも一般的に非常に困難であることが多いといえます。

この点に関し,立証を軽減するとの観点から参考になる裁判例を挙げます。

札幌地判平成22年9月15日平成20年(ワ)第2016号報酬等請求事件(金融商事判例1352号13頁)

【事案の概要】

原告Xが,被告Yか請け負ったサイト構築業務に係る未払いの製作料金5326万7865円等の支払いを求めたが,被告Yにおいて,本件サイトがオープンする直前になって原告Xが提出した見積書では,修正作業等についてすべて追加料金の計算がされているが,当初合意した2000万円の概算金額とはかけ離れた金額が記載されており,被告Yが了承できるような金額ではなく,その製作料金として当事者間で合意したのは概算金額の2000万円であって,被告Yはこれを既払であると反論して,原告Xの請求を争った事案である。

【理由の要旨】

①本件サイト構築業務における個別内容が確定するごとに,それに沿った原告Xの見積書が被告Yに対してそれぞれ提出され,さらに本件サイト構築業務が確定した時点で本件一括提出が行われたこと
②被告Yは,平成18年12月21日頃,本件サイト構築業務の概算見積として合計6000万円であると記載された本件確認書の送付を受けたこと
及び
③被告Yは,被告Yが原告Xから本件サイトの引渡しを受けるまで,各見積書及び本件確認書記載の金額に不満を述べることはあったとしても,原告Xに対して,具体的な金額の交渉を求め,又は本件サイト構築業務の中止を求めることはなかったことが認められる。
被告Yは,遅くとも被告Yが本件サイトの引渡しを受け,本件サイトを公開した平成19年7月25日までに,本件サイト契約における本件サイト構築業務の個別の業務の代金額は,原告Xから被告Yに最後に提出された各見積書記載の金額とすることについて,黙示の同意を与えていたといわざるをえない。
そうすると,本件サイト契約における本件サイト構築業務の代金額は,合計7500万円であると認められ,被告Yはこれまでに合計2500万円を支払っているから,被告Yの未払代金額は5000万円である。

この札幌地判平成22年9月15日の事案は,本件サイト構築業務における個別内容(修正作業等)が確定するごとに追加料金が発生しているという特殊性はありますが,原告Xが見積書を逐一発行し続け,本件サイト構築業務が確定した時点で本件一括提出がなされ,それ以後被告Yから具体的な金額交渉がなければ,見積書に記載の金額について明治の合意がなくても請負代金額の黙示の合意があったと認定されているという点で重要な判例だと思います。

事案ごとの違いはあれど,見積書を注文主に少なくとも提出しておくことは,請負代金額のトラブル防止に役立つと思われます。

トラブルの防止に最も役立つのは契約書の作成(締結)ですが,見積書もしっかり提出しておくことでもトラブルを一定程度防ぐことには役立ちます。
そして,見積書の作成の際には,一人工当たりの人工代や,作業の単価についても明示しておくことが必要です。

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投稿者: 弁護士 結城祐