Q&A

2018.02.08更新

東京池袋城北法律事務所の弁護士の結城祐(ゆうきたすく)です。
今回は,親権者指定と監護権者指定の基準について,です。

第1 監護者の指定・子の引渡しに関する審判前の保全処分
1 要素
審判前の保全処分が認められるためには,①本審判において一定の具体的な権利義務が形成される蓋然性と②保全の必要性の要件を満たす必要がある。


2 ①本審判において一定の具体的な権利義務が形成される蓋然性について
①とは,申立人が監護者として適格であると判断される蓋然性である。子の引渡しの前提として引渡しを請求するものが監護者としての適格性を備えている必要があるからである。
なお,監護者としての適格性については,父母側の諸事情や子の事情を総合的に比較衡量されて判断されるべきである。


3 ②保全の必要性について
(1)条文
家事事件手続法157条1項柱書
「強制執行を保全し,又は子その他の利害関係人の急迫の危険を防止するために必要がある」
 ⇒子の事情も当然に斟酌される。


(2)裁判例
東京高等裁判所平成15年1月20日決定家裁月報55巻6号122頁
「子の福祉が害されているため,早急にその状態を解消する必要があるときや,本案の審判を待っていては,仮に本案で子の引渡しを命じる審判がされてもその目的を達することができないような場合がこれにあたり,具体的には,子に対する虐待,放任等が現になされている場合,子が相手方の監護が原因で発達遅滞や情緒不安定を起こしている場合など」であると判示している。


第2 監護者の指定・子の引渡し
1 相談時の検討事項
(1)従前の主たる監護者は誰であったか。


(2)監護者の指定を求める理由/緊急性の度合い
    ⇒保全処分の検討(家事事件手続法157条1項3号)

(3)今後の監護計画(双方)等

2 実務上の判断要素
(1)「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」(民法766条1項)
 ア 具体的な要素①
   下記の要素等を実質的に考慮して父母のいずれが監護者として適格であるかが検討される。
(ア)従前の監護状況
(イ)現在の監護状況
(ウ)父母の監護能力(健康状態,経済状況,居住・教育環境,監護意欲や子への愛情の程度,監護補助者(祖母等)による援助の可能性等)
(エ)子の年齢,心身の発育状況
(オ)従来の環境への適応状況,環境の変化への適応性
(カ)父又は母との親和性
(キ)子の意思等(後述3参照)

 イ 具体的な要素②
  (ア)子の意思
  (イ)監護の継続性
  (ウ)母性優先
  (エ)兄弟姉妹の不分離
  (オ)父母の婚姻破綻についての有責性
  (カ)面会交流の許容性
  (キ)子の奪取の違法性

(2)最近の裁判例
ア 過去の監護実績をまず確定し,現在の監護状況や子の意思,互いの監護能力や監護態勢とをも検討した上,これらの要素を踏まえ,子の福祉の観点から,父母のいずれを監護者とするのが適当かという検討が行われている。

イ 母親優位の基準に代わって,現在実務で言われているのは,主たる監護者の基準である。実務では,別居時まで主に子の監護養育をしてきたのは父か母かを確定することが行われている。


(3)個別課題
ア 働き方との関係
イ 監護の継続性-日本では,現実に育てている側が有利になりやすい。

3 子の意思の把握
(1)条文
家事事件手続法65条(審判)・258条1項(調停)
 「家庭裁判所は,親子,親権又は未成年後見に関する家事審判その他未成年者である子がその結果により影響を受ける家事審判の手続においては,子の陳述の聴取,家庭裁判所調査官による調査その他の適切な方法により,子の意思を把握するように努め,子の年齢及び発達の程度に応じて,その意思を考慮しなければならない」


(2)子の意思の調査方法
ア 申立の趣旨に対して言語的表現によって表明される意思のみならず,置かれている状況に対して示される認識や挙動に現れる非言語的表現を含むものである。

イ 非監護親と子の関係,子の年齢や心身の状況等,事件類型に応じた諸事情を総合的に考慮して,子の福祉に適うように,「子の意思」を反映させていく。
 個別具体的な判断であり,当該子の置かれている状況によっては,当該子が表面上表出させる言動だけではなく,子の真意や心情について,前後の事実関係を丹念に整理しつつ合理的に推論・分析し,検討する作業が必要になってくる場合もある。

ウ 子の年齢が低い間は子の意思のウェイトは低いと思われるとする見解


(3)代理人の活動
「子の意思」だと裁判所が見るものが本当に適切に把握されている意思なのかということが問われるべき。
調査官調査の報告書に記載されている「子の意思」と,こちらの認識が異なる場合には,具体的な根拠に基づいて反論していく。

4 子の引渡しの執行方法の課題
(1)間接強制
「子を引き渡すまで1日当たり金●●円を支払え」
 ⇒お金を持っていない人に対しては,お金は払わない,引渡しもしないということで意味がない場合もある。

(2)直接強制
専用の条文がなく,子どもを「動産」に準じて執行(民事執行法168条類推適用)


 第3 親権者の指定

1 定義
未成年の子の監護及び教育をし,財産を管理するために父母に与えられた権利・義務の総称

2 考慮要素
親権指定も監護者指定と同様の考慮要所を総合的に考慮


弁護士 結城 祐 (ゆうき たすく)
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投稿者: 弁護士 結城祐